映画日記

地下鉄(メトロ)に乗って

自分が生まれる前の父親や母親を知っていく男女のお話。
小学生のときに、それまでの自分を振り返る自分文集のようなものを書かされた。その自分文集のはじめに書かなければいけなかったことは”父と母の出会いから自分が誕生するまで”だった。私はインタビュアーのように母親にその当時のことを質問した。ずーっとそんなことは忘れていた。
子供のころ、母親は病気をしないものだと思っていた。母が病気で寝込んで休んでいるところを見たことがなかったからだ。私にとって母は「母親」という生き物だった。
私も大人になり、ある日母がそっと話してくれた。「頑張っていたけども、突然どこからともなく海のにおいがすることがあって、そのときだけは、本当に胸がきゅーっとなったし、帰りたいなぁと思った」と。海岸沿いの坂の上に、母の生まれ育った家はあった。その話を聞いたときに、母にも母の人生があり、私と同じように苦しいことも悲しいこともたくさんあるときちんと理解することができた。
人間なんて本当は単純なものなのだ。親にも親の気持ちがあり、すべてを説明するには子供はまだ幼すぎる。理解できずに生まれてしまう確執。親の人生を知ることで、その確執はひとつずつすっかり取り除かれてしまう。理解できることに人はあまり腹を立てないからであろう。
岡本綾をNHKの連続テレビ小説以来にきちんとみた。素晴らしかった。動作が繊細で丁寧でやわらかくて、とても美しかった。