読書日記

ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉 (新潮文庫)

ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉 (新潮文庫)

バックパックひとつでアジアを旅する−それは、いつからか私の憧れだった。
だけど私は結局旅に出ることなく、33歳の冬を迎えようとしている。読み終えたときに、心から思った。「私はあの旅に出なくてよかったのだ」と。
ひとりひとりの人生の瞬間を読み進めるうちに、私のような心持のものはこのような旅に出た場合、きっとなにもかもをだめにしてしまうだろうということが理解できた。
自分は正しいと思っていて、でもうまくいかないから誰かや何かのせいにして、知ったかぶりで、泣き虫で、特別になりたがっている−そんな、あの頃の私が旅で何かを手に入れられるわけがないのだ。
あれから私はどこへも行かず、なんとか「ここ」で生きて行ける自信がついた。そうなった今は「あの旅」にたいする憧れも薄れていった。
今なら分かる。「旅」への憧れは「逃げ」だった。言い訳づくりにしようとしていた。だからこそ、私は「旅」に出るべきではなかったのだ。
今、自分の、いる、この、場所で、しっかりと立てるようになること。私にとって本当にするべきことは、それだった。そのために、うんざりするような自分の気持ちと向き合って、強い心と強い体を作っていった。そして、今、なんとか自分の足で、この、場所で、立っている。