読書日記

グロテスク 上 (文春文庫)

グロテスク 上 (文春文庫)

グロテスク 下 (文春文庫)

グロテスク 下 (文春文庫)

とにかく、読み応えがありすぎた。
自分を取り巻く世界の大きさと、幸せの定義。それは直結しているんだな、と初めて思った。
とてつもなく狭い世界では、笑ってしまうようなことが死活問題になる。もう一歩広い世界に踏み出してしまえば、何の価値もないことなのに。
私がはじめて就職した会社には、多くの人間がいた。大きな部屋にたくさんの人間が集まって、もくもくと仕事をしていた。私は、私だけのルールで生活していた。溶け込んでいない私は、集団にとってはどうでもいい存在だったし、私も集団に入っていないからといって不安定な気持ちにはならなかった。
だけど、転職をしなければいけなくなったとき、私は反対にとても人数が少ない会社を選んだ。そのときに姉が言った「少ない会社は、結構しんどいよ」と。
その後、私はその言葉を実感する場面にも出くわした。世界が狭くなるほど、世界に溶け込めるかどうかは、とても重要な問題になる。その結果、最初の会社では年に3・4回のどうしても出席しなければいけない宴会しか出なかった私が、次の会社では週に3・4回会社の人と飲んだくれるという変貌を遂げたのだ。
そんな狭い世界のことを何度も何度も思い出させる本だった。他者の承認によってしか、幸福を得られない。それは、つらく悲しいことのように思われる。
「和恵」は世間からはほとほとずれていて、自分だけの基準で生きているように見える。だけれども、「和恵」は誰よりも世間の価値観を気にして、徹底的にしがみついて、その果てに怪物になってしまった。

たとえ群衆の中にあっても、ひとりのときと同じ独立心を保ち、にこやかな態度で人と接することのできる人

エマソンはそれを偉大な人と考えた。我々は、環境でどうにでもなってしまう、弱い生き物なのだ。