我々はまず知ることからはじめなければいけないのだろう

劇場公開時から見たくて見たくて、DVDになったので早速借りた。
ヴェロニカ・ゲリンよりすごかった。最初っからホラー映画よりも怖かった。結婚する前に見ていたら、結婚できなかったかも知れない。DVは家庭内暴力であり、家庭内のいじめだ。家庭という場所であるがゆえに、問題はひどくなるいっぽうだ。あんまりにもすごかったので、順番に整理していこうか。ここから先は全部書くので、何にも知らずに見たい人は、見た後で読んでください。さらにさっきみたばっかりだけど、動揺している部分もあるので、順番とか内容とかちょっとずつ間違うかも。
最初に、もはやなぐられた顔で事務所で男と向き合うヤス(DV被害者である奥さん)。「あなたは人生の伴侶にカスを選んだ」と言い切られてしまう。受け入れられないヤス。そして、ヤスの生活が壊れ始めた様子が語られる。最初の部分ははっきりいってぞっとした。あー、やっぱこういうタイプの人がDV加害者になるのはめずらしくないんだと思って。大好きだから、という愛のことばのもとに、静かに暴力は進む。仕事をする妻を憎む。同僚と笑いあう妻は、自分が大好きな妻ではないからだ。そして、仕事を辞めさせる。信じられないやり方で。ヤスは職場がある駅に着く。定期入れには定期券がない。財布を見るとお金が全部抜かれている。かろうじてある携帯で会社に遅れると電話を入れる。仕方なく帰った自宅で小銭をかき集めるヤス。夫から電話が入る「きっかけがないと仕事やめられないだろう、だから背中を押してあげたんだよ」悪魔がやさしく語りかける。
それからのヤスは、夫のいいなりだ。いいなりでないヤスは、容赦なく殴られるからだ。ささいなことで、ものをなげ、テーブルをひっくりかえし、ヤスを殴り、ヤスを蹴る、そして人形のようなヤスとの一方的なセックス。実はこの一方的なセックスの場面が一番きた。まず、肉体的なヤスの痛みを思い、そしてあんなふうにセックスをする相手のことはもう二度と好きになんかなれない精神的な痛みを思った。その後もヤスは夫の顔色をうかがいながら暮らす。そんなときリリィと出会う。ここで初めて涙が出た。リリィ扮するDV被害者は、夫の暴力で左の聴力を失い、足をとんかちでつぶされ、美容院に行きたいといって髪を焼かれる。そしてリリィはヤスに言う「すぐよ、今のあなたからここまでくるのはすぐよ」その言葉が聞こえた瞬間私の涙は溢れた。我慢して、我慢しすぎている人は、どこが限界なのか分からなくなってしまっている。まだ大丈夫、そんな言葉を呪文のように繰り返すだけだ。だけど、あっという間に最悪の事態はやってくる。そのことを考えた瞬間、涙が溢れた。そこからは、ほとんど涙をたらしながら見た。
家で殴ると近所から苦情がくるからと、カラオケボックスでヤスを殴る。頭から血を流したヤスを見ても、カラオケの店員も交番の警察官も救いの手を差し伸べない。ヤスはだんだんと決意する。自分のことを守るのは自分だと。
ヤスは毎日毎日やぶられると知っていて、離婚届を夫に渡す。そして殴られ、蹴られる。蹴られ「もっと蹴りなさいよ」と声を上げる。ヤスは立ち上がったのだ、夫と限界まで向き合うことにしたのだ。そしてリビングにネットカメラが設置される。ヤスのHP「DV実況中継」のために。カメラに気づいた夫はヤスを殺そうとする。包丁は使えないように縛られてしまってある。夫はヤスを追いかけて、首を絞める。「こうするしかない」とつぶやきながら。なんなんだ、なんでヤスは首を絞められて殺されかけなければいけないのだ。ヤスは用意していたスタンガンを使い、二度と戻らない家をあとにする。ヤスの「DV実況中継」をもとに夫は逮捕される。夫と向き合うヤスは素晴らしかった。毎日毎日めげずに立ち向かうヤスは生まれ変わろうとするヤスは美しかった。いくら殴られて顔がはれ上がっていようとも。
最後30分は声を出して泣いた。こんな映画ってないよ。
もし、私の夫がある日突然暴力的になったら、私はすぐに夫から離れられるだろうか。いや、できない。きっと、今日は何か機嫌が悪かったのだと自分に言い聞かせるだろう。次の日も殴られたら、私がなにか悪いのだろうと思うだろう。DVの一番の問題は、最初は愛し合った二人であるというところだろう。だからなかなか、変わった相手を認めることが出来ない。さらに相手が一方的に悪いのだなどとはとても思えない。パートナーと二人だけで暮らしていると、こういった世間的にはおかしいけれど、二人でいると通用してしまうという何かがある。
DVの渦中にいる人は、この映画はなかなかつらくて見られないだろうと思う。だけど、それ以外の見られる人は見てほしいと思った。たくんさのひとがこの映画を見ることによって、この映画を見られないDV被害者の人たちが一人でも救われるといいと思った。だってこの映画を見て、途中のカラオケボックスの店員や警察官が正しいとどうやったって思えない。だけど、世の中はあんなことをいう人ばっかりだ。だからなるべくたくさんの人がこの映画を見て、突然目の前に現れたDV被害者に少しでも救いになることを伝えてほしいと思った。ひとりよがりな感想だけど。