読書日記

東京奇譚集

東京奇譚集

「怖い話」ではなく「不思議な話」
誰にでも大なり小なり「不思議な話」というのは存在するだろう。「どうしてるかな」とぼんやり思った相手から突然電話がかかってきたりとか。私は神様はいないと思っているのだが、運命を管理する人たちはいるような気がする。運命の管理はそれこそ数が多いので、すごく組織だった団体のようなものであると思われる。たとえば、どう考えても偶然では起こり得ないことがあり、それがその後の人生に大きく影響するような場合。偶然のまま何にも手を加えないでいると予定通りの運命が遂行されなくなってしまう。運命管理組合はそれを未然に防ぐための団体なのだ。正しく線をつなぐように、運命管理組合の皆さんは日夜われわれの行動を見守っているのだ。
なぜ、そんなことを考えたのかというと私にはひとつすごく「不思議な出来事」があり、それは私の人生を大きく変えてしまったし、今もその渦中にいる。何度考えても運命管理組合の人が、すこしずつ時間をかけて伸びてきた私の線を 「ぐいっ」 とひっつかんである出来事にくっつけたとしか思えないのだ。私はもともとそこにくっつけられる運命だったのだが、それまでの人生でどうもそちらに線が向かっていなかったのだろう。くっついた瞬間は今考えても「ぐいっ」という表現がぴったりくる。こうしていま存在している私はまさに決められた運命を過ごしているのだろうが、運命管理組合の方が見逃さずに正しいところにくっつけてくれたが故にこのようにしていられるのだろう。
いくつかの短編で構成されており、私が一番好きなのは「品川猿」である。
「猿にとられたりしないように」・・・素敵な文章だ。この文章があることで、この話がいっぺんに好きになってしまった。やっぱり村上春樹はいいなぁ、いいよ。


アンチョビ評価 (いつだって)★★★★★