音楽日記

at the BLACK HOLE (通常盤)

at the BLACK HOLE (通常盤)

ああ、吉井和哉の声はどうしてこんなにも私を優しくくるんでしまうのだろう。
私の耳から入り込んだその声は、私の心のやわらかい部分にどろっと流れ込む。私の心はやわらかさとあたたかさに包まれる。そして、同時に私が一番忘れたい私の記憶を鮮明に呼び起こす。
私は、若く、愚かで、世界の中心は自分だった。他者の気持ちなどは理解しているようで、まったく自分のご都合主義の解釈であった。
飲みつかれて帰る帰り道、自分ひとりがすっかり世界から取り残されたような気持ちになったとき、私はあの人に電話をかける。「さみしいときにしか電話をしない私」最低だ。なんて女だ。最低。だけど、それは私だった。今の私と、同じ人間だ。
そんな私の電話にいつも出てくれたあの人。「もしもし、どうしたの?」と。「どうかしてる」時にしか電話がかかってこないことを知っているからだ。その一言を聞いただけで、私が電話をかけた目的は達成されている。あの人の声を通して、私は再び世界とつながることが出来た。
私が一番嫌いだった私のことを好きだったあの人。
「どうしてこんな私のことが好きなのか、全然理解できない」という問いかけに、「こんなに全部さらけだしてくれてるからじゃない?」と笑って答えたあの人。最低な私はそのやさしさにすがっていた、あの人の気持ちにこたえることも出来ないくせに。
「もう電話はしない」といってから、いったい何年たったのか。忘れながら生きていく人間である私は、もうほとんどあの人のことを思い出さなくなっていた。
だけど、吉井和哉の声が耳から入り込んだあの瞬間、私はこの記憶を鮮明に思い出した。そして、今もその気持ちと向き合っている。「自分は最低な人間だ」と忘れていく脳裏に無理やり刻み付けるために。