私は神様のような歯科医から『歯列矯正』という選択肢をある日つきつけられた。
何事にも影響されやすいため、その日から私の頭は『歯列矯正』のことでいっぱいになってしまった。そしてとにかく手当たり次第に相談を持ちかけた。
相談を持ちかけられた相手は一応にちょっと詳しい人たちに聞いてみるという作業を行ってくれた。しかし、その聞いた内容に関わらず「相談をもちかけた相手が歯列矯正をしたいと思っているかそうでないか」で意見は分かれた。
ずっと歯列矯正がしたかったと私に語った彼女は「できるなら私もやりたい。自分の歯の中心と鼻の中心がずれているのが、昔からとてもとても気になっている。そんなチャンスに恵まれてうらやましい」というようなことを言った。ちょと待て。私はチャンスを手に入れたわけでもなんでもないのだ。ただ知らなかった情報を入れられて、混乱しているだけなのだ。むむむ。
そして、結局私もみんなと同じ結論に達してしまった。「歯列矯正をしたい」という気持ちが私に無かったため、私は「噛み合わせを直す程度でごまかしながら生きていこう」と決めた。
その数年後、結局ふたたびこの問題とめぐり合うことになるのだが、このときは「せっかく貯めた結婚資金が歯列矯正に消えなくてよかった」としか私は思わなかった。